Stich clock/ 刺繍の時計

文字盤に可愛らしい刺繍が施された掛け時計。この製品は福祉作業所の方から、新しい商品を作りたいとお声掛けいただいたのがきっかけで生まれました。福祉作業所とは、障がいを抱えた方の働く場、そして就労に向けた訓練の場、生活支援の場を提供することを目的とした施設です。作業の一環として簡単な商品(食品や雑貨など)を企画・生産・販売し、その収益を生産従事者に還元していますが、商品は安価な価格で販売されることが多く、待遇の改善や経済的自立はまだまだ難しい状況となっているそうです。そんな辛辣な声を受けて、少しでも状況の改善の一助となれば、という想いからデザインに取りかかりました。

作業所内では出来る作業も限られるほか、手作業で作るためどうしても不揃いな面が出てしまいます。しかしその”不揃いさ”が個性や温かみとして感じられて、そして付加価値に繋がるような商品を作るにはどうしたら良いのか。そんな視点より、さまざまな作業から着目したのが刺繍技術でした。縫うという仕事は、作り手によって様々な個性が出る作業であり、手しごとならではの温かみがあります。この手しごとの素敵な味わいなら、商品として付加価値のある価格で販売することができるのではないだろうかと考えました。

そんな刺繍技術を活かした最初の商品が、この掛け時計です。掛け時計のムーブメントや針は比較的簡単に入手することができる上に、縫う時に必要な刺繍枠を時計の枠にそのまま使用することができます。また掛け時計は市場でもそれなりの価格帯で取引されているため、比較的高い価格での取引でも充分な可能性がありました。ひとつひとつ手しごとで作られた世界にひとつしかない掛け時計なんて、なんだか素敵な響きだと思いませんか?不揃いさも見方を変えれば、それは温かみであり個性となります。これは障がいを抱えた方が自由に縫ったカタチが、そのまま魅力になる掛け時計です。

サイズ:W210×D18×H210
素材: 布、刺繍糸、刺繍枠、ムーブメント
クライアント:墨田区役所

Direction&design: Mitsuyoshi Kikuchi / Photo by Mitsuyoshi Kikuchi

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